語る

若年層に強い任意整理の話

日本は医療保険制度が完備していることもあって、延命の医療が安易に行なわれる。
死を受容する姿勢に違いがあるからだ。
こうした現象を捉えて、欧米が理想的で、日本は小手先にすぎるというのではない。
口本ではまだバイオエシックスの思想が確立していないうえに、「死」についての考えが旧来刑七の理念のもとで諒解されているためにかたちが定まらないのである。
現在、医療の世界でこのようなギャップと闘いながら「医師・患者の関係」を模索している医師は多い。
そういう医師の言を、むしろ国民(患者)の側が受け止められないでいるという現状もある。
尊厳死を許容する社会的風土や意識が日本には定着していないし、これからもしばらくは定着しないのではないかというのは、日本の社会そのものが変わらなければ不可能だからである。
脳死や臓器移植論議を見てもそれはいえる。
この新しい医療行為は尊厳死とも微妙にからんでいる。
現在、脳死状態からの臓器移植は社会的に諒解ができているとはいえないために、日本ではほとんど行なわれていない。
脳死の判定基準は、これまでの心臓死の判定を変えることでもある。
生命維持装置の菅場で心臓死の三徴候を変えたといってもいい。
肺の呼吸は脳の機能がなくなっても人工呼吸器によって可能である。
このような生命維持装置を使うことで心臓も動かすことができる。
だがむろんある一定期間である。
しかしともかく、脳は死んでも脳以外の臓器が、人工呼吸器、薬物投与、栄養の補給によって機能を弱めないというのは、「死」のイメージを大きく変化させていく。
これが尊厳死の場合のインフォームド・コンセントとはどのような関わりをもつのだろうか。
アメリカでは、脳死状態になったときに、医師は家族に対してインフォームド・コンセントを行なう。
その折りに三つの方法が示される。
このまま脳死状態をつづけて延命を図るか、つまり心臓死まで待つかという案。
この場合の医療費は自己負担となる。
脳死状態になったので臓器の提供を承諾するという案。
むろんこのときには本人の意思が尊重され、家族は本人の同意を得ていることが条件だ。
医療膏は臓器の移植を受ける側が支払う。
脳死状態になったために一切の医療を打ち切るという案である。
どの案を採るかは本人の権利を代行する者天体は配偶者とか親子によって決められる。
延命の受けいれであり、たとえ脳が死んでも肉体が暖かく呼吸も延命装置によって支えられているわけだが、その状態で心臓死まで見とどけるというのである。
アメリカの医療薯は、日本と比べてはるかに高い。
保険にはいっていればまだしも、そのような経済的保証がなければあきらめる。
しかし、だからといってそれは尊厳死を認めたわけではない。
尊厳死に関わりなく、「もう治療はしないで下さい」と申しでるのである。
無意識の尊厳死-あえていえば、そういういい方ができると思う。
臓器の提供を申しでた瞬間に、移植医療のスタッフたちに治療の主導権は移っていくが、尊厳死のリビング・ウィルがあれば脳死状態が移植医療の手に移るまでの短い時間にそれを受けいれるというかたちになる。
これは、臓器移植主導の尊厳死であり、受け身の尊厳死といっていいだろう。
現代医学では、脳死はすでに脳の働きが不可逆的なものとして諒解されている。
ただし、延命装置によって肉体的な生は続いているために、あたかも以前のように精神も戻るかのように思われるが、それはありうることではない。
尊厳死はこの状態が宣告されたときに行なわれる。
具体的には延命装置を外すことになるが、これを外すのは医師の医療行為である。
アメリカのカレン事件では、父親がそのスイッチを外す権利を私に与えてほしいと法廷にもちだしたのだが、裁判所は尊厳死を認める医師の手によって行なわれなければならないとその意を受けてくれる医師をさがすよう命じた。
日本でも前述の栃木児益子町の女性陶芸家のケースでは医師がその行為を行なっていて、尊厳死の厳格な基準は守られている。
現在、日本では毎年八十万人余の死者がいる。
そのうち脳死状態になる末期患者はおよそ一パーセントといわれている。
八千人ほどがそのような状態になって病院の集中管理室でこのうち実際に人工延命装置のスイッチを切るというケースは、どれほどあるかは明確にはなっていない。
しかしこれだけの脳死状態の悪者がいながら、個々のケースがあまり表ざたにならない裏には、医師と患者の家族が積極的延命医療をさけるという暗黙の諒解のうえで治療を進めているとも推測される。
その話し合いが毎日のように行なわれているのだろう。
そこまでは日本社会に特有の阿帖の呼吸が、インフォームド・コンセントの代用になっていると思われるのだ。
先進諸国で脳死を公式に認めず、それゆえに臓器移植が行なわれていないのは、日本とイスラエルだけである。
イスラエルは宗教上の障壁があり、国民的合意を得るまでには至っていない。
だが日本のように宗教的な制約があるわけでなく、医学知識や医療水準もその医療を行なうレベルに達しているにもかかわらず、実施されていないというのは確かに珍しい。
なぜ日本では脳死判定が探られず、臓器移植が行なわれないのだろう。
海外の移植医はそのことに一様に首をひねる。
臓器の必要な患者は、アメリカやイギリス、オーストラリアにでかけて臓器の提供を受けている。
日本の新開にはそれが美談風に報じられることもある。
フィリピンにでかけて臓器を買うというケースもあるといわれ、これはこれで内外から批判を受けでもいる。
日本の移植医は一刻も早く日本でも行なうべきだと主張する。
臓器移植後進国だといって嘆き、年間に数千人の臓器移植を受けたい患者が死んでいるともいう。
推進派の移植医たちは今や焦りの極に達しているかのようだ。
これに対して反対派の医師たちは、「脳死は死ではない」「臓器移植は社会的弱者の切り捨てになる」と激しい口調で反撥している。
脳死判定が認められず、臓器の提供を受けられないために心臓や肝臓の臓器を移植してほしい患者は、自前の資金で外国にでかけて手術を受ける。
その構図を尊厳死や安楽死にあてはめてみたらどうだろう。
たとえば日本では、積極的安楽死が認められていないということで、海外にでかけたらどうか。
むろん末期患者はそんなに簡単に移送できるわけではないし、「死」の場所を海外に求めるということなどありえないという声もあろう。
だが臓器移植とて、海外に臓器の提供を受けにいく患者など十年前には考えられなかったことだ。
それに海外に臓器移植の手術を受けにいって、順番を待っているうちに死亡した患者とて少なくない。
それを考えれば、いずれ安楽死を求めて海外へという事態もありえないわけではない。
日本人は他国の臓器をカネで買っている、と批判されるのと同じ論法で、日本人はカネをもってわが国に死の医療を受けに来る、と批判されるかもしれない。
なぜ日本では脳死判定が認められず、それゆえに臓器移植が行なわれないか、その背景をさぐっていくと、結局は日本人の死生観につきあたる。
前述のように日本人の宗教、倫理、文化などが「死」について明確な答をだしているわけでないから、アメリカやヨーロッパのように明確な答をだせないでいる。
その答をだせないというところに、日本人がこの最新鋭医療に取り組めない理由がひそんでいるのである。


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